第IV章 演習問題 [1]

驚くべきことに, \(\mathrm{ZF}\) の公理のうちクラス \(\mathbf{ON}\) で成立しないのは, 内包性図式(公理 3)だけである. というのも, 本書では対の公理(公理 4)を \[ \forall x\forall y\exists z\big(\,x\in z\land y\in z\,\big) \]と定式化したり, 置換図式(公理 6)を \[ \forall A\forall w_1,\ldots,w_n\Big[\; \forall x\in A\exists! y\,\phi\;\rightarrow\; \exists Y\forall x\in A\exists y\in Y\,\phi \;\Big] \]と定式化したりと, 対や像集合そのものではなく, それらを含む「十分大きい集合」の存在を保証する形で公理を定式化しているからだ. 実際に対や和集合や像集合を取り出すさいには, それら「十分大きい集合」から内包性図式によって部分集合を抜き出すという方法を採っているため, \(\mathbf{ON}\) においては対集合も像集合も存在しないにもかかわらず, 対の公理も置換公理も形式上は成立しているのだ. それに, 和集合の公理(公理 5)と冪集合の公理(公理 8)は, 本来の意味で成立している. というのも, \(\alpha\) が極限順序数なら \(\bigcup \alpha=\alpha\) であり, 後続者なら \(\bigcup\alpha\) は \(\alpha\) の前者で, いずれにせよ順序数であるし, \(\mathbf{ON}\) における \(\alpha\) の冪集合は \[ \big(\mathcal{P}(\alpha)\big)^{\mathbf{ON}} =\mathcal{P}(\alpha)\cap\mathbf{ON} =\alpha+1 \] であるから. \(\omega\in\mathbf{ON}\) なので無限公理(公理 7)も \(\mathbf{ON}\) で成立し, 外延性公理(公理 1)と基礎の公理(公理 2)も \(\mathbf{ON}\) が推移的クラスであることにより成立している.

なお, 選択公理(公理 9)については, そもそも二項関係というものが(空な関係を除いて)順序数になりえないので \(\mathbf{ON}\) で成立しない.

いずれにせよ, すべては公理の定式化に依存した話です. キューネン本の定式化に従う限り, \(\mathrm{ZF}\) の公理の《ほとんどすべて》が \(\mathbf{ON}\) において成立すると言ってよいわけですが, 集合論で目にする\(\mathrm{ZF}\) の定理の大部分は \(\mathbf{ON}\) では成立しません. 証明される定理の集合を変えることなく, 置換公理や対の公理を \(\mathbf{ON}\) で成立しない形に書き変えることも簡単にできます. いっぽう選択公理を形式上 \(\mathbf{ON}\) で成立させる秘策もあり, それは, 「任意の集合上の任意の同値関係は代表元の完全系をもつ」という形で選択公理を定式化することです. というのも, そもそも \(\mathbf{ON}\) では空でない集合上には空でない二項関係 (同値関係であれ何であれ) を与えることができないからです. もちろん, こういう姑息な手段で公理を《成立》させてみたところで, \(\mathbf{ON}\) がまともな集合論のモデルと呼ぶには程遠い代物であることに変わりはありません.

解答者: 藤田 博司 (公開日: 2011年6月12日)

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